独立したばかりのエージェントは、どんなことを考えているのか? がテーマとなる本連載「キャリプロ 人材紹介独立インタビュー」。第1回となる今回は、Labor Labo代表・宮本貴史さんにご登場いただきます。
株式会社groovesが提供するヒトの“キャリアシフト”を創造するサービス「キャリプロ」、その人材紹介プログラム研修を受けて開業した宮本さん。クラウドエージェントを活用されたこともあり、成果を出し始めたタイミングでお話を伺いました。
「また人材紹介をやりたい」と思って独立
――簡単に、宮本さんのご経歴を伺えますでしょうか?
宮本 京都の龍谷大学を卒業して、新卒で滋賀県のホームセンターに入社しました。約4年間いろいろな部門をまとめる経験を積んで、5年目にリフォームの営業に異動。営業職を1年半ほどやってから、転職を考えました。
地元でよく遊んでた先輩がバイク屋さんで働いていたこともあり、その紹介で京都のハーレーダビッドソン(アメリカ製オートバイ)のディーラーの営業に転職しました
――ハーレー専門なんですか?
宮本 国産も扱っている会社なんですけど、各メーカー毎に店舗を分けています。
ただ二輪の業界は、一番良い時に比べると売上がかなり落ちていて。30歳で結婚をしたこともあり、「このまま続けていても」と思って32歳で退職して2,3カ月ほど転職活動をしていました。
転職エージェントの存在は以前から認識していましたが、この時にしっかり使ってみて「こういう仕事があるんだ、人のためになる良い仕事だ」と興味を持つきっかけになったんです。ただ、30歳を超えて法人営業の経験が無かった私を採用する企業はなかなか見つからず苦戦したのは今でも記憶に新しいです。
実は学生時代は新卒で入社した1社しか面接受けていなかったので、この時に初めて就活の大変さも味わいました。基本的に人と話すことが好きなので、続けていくうちに面接慣れしていって、それこそ「趣味・面接」みたいな感じで就活を楽しんでいて・・・。
何とか未経験でもOKということで採用していただいた医療・介護・福祉専門の人材紹介会社に入り、2年ほど看護師さんの転職支援をやってました。
その後一社を挟んで前職だったんですが、会社の体制変更で仕事を続けるか判断を迫られるタイミングがあって。それで辞めて、独立することにしました。去年の7月頃です。
次に何の仕事をしようかなと思った時に、「また人材をやりたいな」と思ったんです。自分は会社への帰属意識が薄くて、結局また辞めるんじゃないかなと思って。
何か自分でできることはないかな、と調べていたらgroovesさんの大阪でのキャリプロのセミナーを発見したんです。元々経験があって開業資金はそこまで掛からない。退職金もあったので「これならできるかな」と思って。2018年12月に許認可が出て、今年に入ってから本格的に動き出したという感じですね。
初めての成約、「とにかく無事に入社して」と祈りました(笑)
――2013年、モード・プランニング・ジャパンさんで初めて人材紹介の仕事をされたと。その頃から、人材紹介は好きだったんですか?
宮本 実はそうでもなくて(苦笑)精神衛生にあまり良くない仕事だな、と思ってたんです。看護師さんを対象にやってたんですけど、超売り手市場なので面接に行くと大体受かるんですよ。
だから、看護師さんに「どうやってその病院を選んでもらうか」が大事で。入ったとしても、ちょっとでもミスマッチがあるとすぐ辞める方もいらっしゃるので・・・。もちろんちゃんとグリップできていたら大丈夫だと思うんですけど、いつもドキドキしながらやってました。
――確かに、同じ業界を転々とするイメージはありますね。
宮本 そうですね。狭い世界なので。でも人の命を預かる大変な仕事なので中には精神的にやられちゃった人もいたりしました。
――そういう経験があっても、人材紹介業を選ぼうと思ったのは、groovesさんのセミナーの内容が良かったんですか?
宮本 そうですね、いろいろ腑に落ちた部分はあります。イメージしていたことと共通していて、「これだったらできるんじゃないか」と思ったんです。
当時キャリプロが大阪にきたばかりだったのもあり、うまくスタートできれば自分がこのサービスに良いモデルになれるかもしれないと勝手に考えてもいました。
――そして2018年12月に有料職業紹介の許認可が取れ、2019年2月にレイバー・ラボさんを設立。初めてお客さんを取れたのは、いつ頃なんですか?
宮本 成約が付いたのは、その月です。慣れるために試運転していた時期の人で、かなりラッキーでしたね。
成約したのは2人で、1人目は女性です。前職は秘書をやってらして、会社が業績不振で既に退職されてました。秘書時代に少しかじった人事職をやってみたい、ということで応募があって。未経験で人事にチャレンジできる求人があったので紹介しました。見た目も人当たりも抜群によくて、どこに行っても受かるだろうな、という感じの人でしたね。
もう1人は男性で、証券会社の営業マン。前々職で電気関係のサービスエンジニア的な仕事をしていて、成長企業が若手の営業を募集されていたので紹介できました。いわゆる将来の幹部候補ですね、入社前から会社の期待がひしひしと伝わってきてましたね。
――初めて成約した時、どんな気持ちでしたか?
宮本 「とにかく無事に入社してくれ」でしたね(笑)。内定出てから入社するまで、現職の人は少なくとも1カ月あります。その間に、何が起こるかわからないですから。入社しないことには売上が立たないので、そこを祈っていました。
――売上でいうと、100かゼロかですもんね。
宮本 そうです。
――その間どういう風に過ごしたんですか?
宮本 ある程度定期的には連絡を取りました。例えば退職の話が出てくるので、どう退職交渉をするか話をしたり、あと、入社までにこういう準備をしておくと良いですよ、という話をしたり。
――もしその時に本人が心変わりしてたりしたら、手の打ちようがないわけですか?
宮本 ないんです。ただ、内定承諾の段階で本人にはある程度クロージングをかけて、「受けた以上断ることはできませんよ」という認識で話はします。
――晴れて入社し、宮本さんにも入金がありました。それで、その方との繋がりは終わるんですか?
宮本 いえ、不定期ですが連絡は取りますね。「責任期間」というものがあるので、入社してから3カ月以内に退職すると、期間に応じて何パーセントか返金しないといけないんです。
――生々しい話ですね(笑)。企業さんによっては80パーセントってケースもあるそうですね。
宮本 はい。それもありますが、「企業さんもそれだけあなたにコストを掛けてるんですよ、期待の裏返しですよ」と伝えたりしますね。
――それだけ期待しているし、あなたも内定を承諾したわけだからお願いしますよみたいな感じで。
「社会から必要とされているな」と感じます
――人材紹介で「これは楽しい」っていう部分は、どういうところがありますか?
宮本 仕事の相談をしてもらえるのが、一番楽しいですね。「今こういう状況なんですけど、どうしたらいいですか」と相談してくれる人がいるんですよ。
その方にご紹介できる求人がなかったら、僕にはどうしようもないんですね。でも、せっかくの縁じゃないですか。転職活動の中でお手伝いできることがあれば、僕は喜んでやります。それで少しでも頼ってもらえるのは、楽しいと感じる部分ですね。
――この仕事の魅力ややりがいは、やはりその辺りなんですか?
宮本 そう思いますね、そこが1番だと思います。「社会から必要とされているな」と感じることができると思います。
――確かに宮本さんは相談に乗りやすい、お兄ちゃん的存在に見えますね。
宮本 昔から、人にあまり嫌われないタイプだと言われるんです。それもこの仕事を始めた要因のひとつだと思います。
――どういうところが嫌われないって言われるんですか?
宮本 駅で見知らぬおばあちゃんによく道を聞かれたりするんですよね。これは以前に一緒に働いていた方が教えてくれたんですけど、要は「見知らぬ他人からも、話しかけやすそうに見える」ということで。
これも以前に働いていた会社の社長の受け売りですが、この仕事は10人いて10人に好かれる必要はないんです。でも、7人に嫌われなかったらOK。そう考えたら、向いてないことはないのかなと解釈しています。
アドバイスは、求められない限りやりません。
――たくさんいるエージェントの中で、ご自分の「こういうところを見てほしい」というポイントはありますか?
宮本 ありきたりかもしれませんが何でも相談に乗ります。仕事の相談はもちろん、人生相談でもいいですし、趣味の話でもOK。仕事とかキャリアは人生の一部なので、「僕と喋って良かったな」と思ってもらえたら何でもいいです。
――「みなさんにアドバイスをしたい」みたいところがあるんですね。支援に繋がらなくても、良かったなと思ってもらえるエージェントさんなんだろうなと思いました。
宮本 そういうエピソードだったら、看護師の人材紹介をしていた時もいっぱいありますね。
以前あったのは40代の、上の子はもう成人して、下の子は幼稚園に入る、という女性だったんです。就職先に困ってらしたので、相談に乗って。何とか仕事も決まって、これから入職ってタイミングで下の子が熱を出して入院しなきゃいけないって話になって、結局入職できなかったんです。
さらに、負の連鎖で生活費をATMから下ろした際に、財布に入れ忘れてそこに置いたままで置き引きにあってしまって。そういうこともあり、精神的に病んでしまわれたんです。「起こったことは仕方ないので、また次の仕事を探しましょう」と励ましながらやっていきました。
――伺っていて、間違いなくこの仕事に向いている人だなと思います。この後に繋がるとか考えずに、その場で的確なアドバイスをしてらっしゃるんだなと。
宮本 ただ、アドバイスは求められたらする、求められなかったらしない、です。基本、余計なお世話じゃないですか。今日までのべ100何件、応募件数がある中で内定が出るのは6件なんです。難しいパズルを組み合わせているような感じなんですよね
――医療の人材紹介も数年やってらして、今やってることの違いはどのあたりに感じられますか?
宮本 1番大きいのは「面接に辿り着かないこと」ですね。しっかり書類も準備しても選考を通過しないことも多い。極端な話、看護師紹介は書類選考なんかないんです。個人情報や具体的な経歴が書いたレジュメではなく、情報を特定できないプロフィールシートで書類選考が通過するんですよ。
――人材派遣と同じような感じですね。
宮本 似ている部分はあるかもしれませんね、それでやり取りをするんです。
あと、いろいろな業種や職種があるじゃないですか。そこは結構大変ですよね。知らないし、働いたこともない業界の知識をたくさん身に付けないといけない、でもそれはこの仕事をしたい理由のひとつなんです。幅広くやるのが好きなので、苦労はありますがやりがいや新しい発見といった喜びも多いですね。
仕事探しじゃなく、何をしたいかを探すお手伝いを。
――今後の事業展望をお伺いできますでしょうか。
宮本 今、フリーランスでやってるんですけど、できれば法人化したいですね。規模として、もう少し大きくできて一人でも雇う余裕ができたら。
理想で言うと、僕と会うことによって少しでも自分の仕事にやりがいを見出したり、「頑張っていこう」と思えるような手伝いができたら。僕はそれが1番楽しいです。
本音を言うと、僕は別に会社を辞めなくても、転職しなくてもいいと思ってるんです。僕の食いぶちは無くなるんですけど(笑)、でもそうなったら求職者も仕事に悩まないし、会社側も人に困らないと思うんです。
日本はまだまだ「新卒で入って、終身雇用で」という大きな流れがありますよね。でも、欧米のように仕事に特化する採用形態の方が会社は人に困らないんじゃないかなと思います。年齢や学歴は関係ない、その人が今持っているスキルそのもので企業にダイレクトに貢献できる、少しずつ増えていると思いますけど。今後努力して、そういう働きかけができたらいいなと思います。
――人材紹介業を今後、どういう風に変えていきたいですか?
宮本 勘違いをなくしたいですね。今、変に「売り手市場」みたいな情報が先行していて、求職者の人もちょっと勘違いしてしまうというか。「毎日求人のメールが来るし、仕事っていっぱいあるんだ」みたいな。
だから、仕事を探すんじゃなくて「何をしたいか」を探すってことが大事だと思うんです。その仕事を通して、自分はどうしたいのか、どうなりたいのか。それがなくて条件に固執してしまった場合、その条件が何らかの要因で崩れた場合、結局みんな辞めちゃうと思うんです。
――今後どういうエージェントになっていきたいですか?
宮本 ビジネスの仕組み上、どうしても企業側からお金をもらう構造なので企業側に寄らなきゃいけないとは思うんですが、それでも求職者の立場には立ちたいですね。求職者にとって、より良い選択を導き出せる手助けをしたいです。
僕はよく「人生の3分の1を考える」って言うんですよ。一般的な労働時間って会社勤めで、1日24時間と考えたら8時間。1日の3分の1、人生の3分の1は仕事って考えたらここをどう過ごすかで人生は変わってくる。そこに対してアプローチできるエージェントになりたいと思ってます。すごい曖昧な表現ですけど。
――最後に、独立を検討している方に向けてメッセージをお願いします。
宮本 会社にいようが、自分でやろうが、やることは一緒。安定するかしないかはありますけど、やる仕事は一緒だと思うんですよ。
だから、純粋に「仕事が好き」だったらできると思うんですよね。やることがはっきりとわかって、「こうしたい」という気持ちがあるんだったら、会社でも独立しても一緒です。実際、独立を検討している方って結構いるんですか?
――かなりいますね。いますけど、「人材紹介って何」っていうところから入る人が多いですね。
宮本 なるほど。それでいうと、型にはまらなくてもいい、自分でやりたいようにできるというのが一つの魅力だと思いますね。大手は大手なりの積み上げてきたスキームがあるけど、それを真似することはできないし、する必要もない。
とはいえ「結構メンタルはやられますよ」っていうのは言いたいですね(笑)。人ってモノじゃないので、自分の思った通りに絶対動く訳がないじゃないですか。
――人の心って簡単に変えられない、だからこそ達成感があるというか。
宮本 そうですね。その分返ってくるものも大きい。それは間違いなくあります。
すごい偶然なんですが、今携帯にショートメールが来たんです。これ、最初に決まった女性なんですけど、「入社して半年なんですけど、楽しく働かせてもらってます」というメールでした。仕込んだわけじゃないですよ(笑)。いいなあ、こういうのがもらえると嬉しいですね。
――最高ですね、すごい偶然! こういうのが仕事冥利につきますね。インタビュー以上になります、ありがとうございました!
ライター:澤山大輔
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