人材紹介会社の起業を検討している方の中には「想定されるトラブルについて知っておきたい」という方も少なくないと思います。人材紹介業では、実際に求職者の経歴詐称や人材紹介手数料の中抜き、企業側の未払いといったトラブルが発生することもあります。さらにトラブル発生時、求人企業に対して返金しなくてはならないケースも存在します。
そこで本記事では、人材紹介業でよくあるトラブル事例やトラブルがあった際の対応(返金など)について詳しく解説します。また、トラブルが起きないようにするための予防方法も取り上げます。本記事を読んで、人材紹介業で起きるトラブルや対応方法について理解し、あらかじめ予防策を考えておきましょう。
人材紹介業でよくあるトラブル事例
人材紹介業でよくあるトラブルは、次の通りです。
- 求職者の経歴詐称
- 人材紹介手数料の中抜き
- 入社後のミスマッチや早期退職
- 企業側が報酬を支払わない
ここでは、各トラブルの詳細を見ていきます。
求職者の経歴詐称
人材紹介業では、入社後に求職者の経歴詐称が発覚するトラブルがあります。求職者が学歴や職歴などを偽って入社し、後で発覚するケースです。経歴詐称に該当するものは、次の通りです。
- 卒業していない学校名を記載
- 学校の卒業年度を変更する
- 学校を中退しているにもかかわらず卒業と記載
- 派遣社員の雇用形態を正社員として記載
- 会社の在籍期間の長さを変える
- 転職回数を実際よりも少なく見せる
- 取得していない資格や免許を記載 など
求職者の経歴詐称において求人企業側から返金を求められるかどうかは、契約内容によって異なります。ただし、人材紹介会社が詐称に気づいているにも関わらず黙認したり、虚偽を促していたりした場合、責任を問われる可能性があります。
- 実際に起きたトラブル事例:入社者の経歴詐称で返金トラブル
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- 入社をしたが、仕事を任せてみると面接時で聞いていたほどのスキルがない。聞いてみると、経歴を詐称したことが判明。返金規定3ヵ月を過ぎてからの問題発覚だったため、返金に関してトラブルに。
人材紹介手数料の中抜き
途中辞退、もしくは不採用となった求職者が、紹介した企業に人材紹介会社を通さずに入社し、人材紹介手数料の中抜きが発生するといったトラブルもよく見られます。求人企業は、「本人の直接応募で入社した」と主張することで、人材紹介手数料を払わない可能性があります。
こうした人材紹介手数料の中抜きが起きてしまうと、人材紹介に費やした時間や業務が無駄になってしまい、人材紹介会社にとっての損失につながってしまいます。
しかし、人材紹介手数料の中抜きのケースにおいては、人材紹介会社側が行った紹介行為と雇用に因果関係がある場合、人材紹介手数料を請求できます。
入社後のミスマッチや早期退職
紹介した人材が、求人企業の求める適性や能力を満たしておらず、入社後にミスマッチが起きてしまうトラブルも珍しくありません。ミスマッチが生じた場合、入社者は会社にも業務にもなじめず、すぐに退職してしまうリスクが発生します。
ミスマッチは、求人で良い面だけ伝えていたり、求職者に対して提供する情報が不足していたりする場合に発生します。また、入社後のフォローを怠っていると早期退職につながるリスクがあるため、人材紹介会社がフォローアップする体制を整えておくことも重要です。
紹介した人材が欠勤続きであったり、うつ病など隠れた病歴などがあり早期退職となったりした場合、求人企業から返金を要求される可能性もあります。
- 実際に起きたトラブル事例:入社前に病気が発覚
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- 入社承諾したが雇入れ検診で重病が発覚し、辞退、そして音信不通。入社時の紹介費用は全額返金に。
企業側が報酬を支払わない
企業側が報酬を支払わないトラブルも発生しています。人材紹介業は成果報酬型のビジネスであり、報酬は後払いです。前払いではないビジネスモデルだからこそ、紹介した人材の採用決定後、求人企業側が報酬を支払ってくれないケースも考えられます。
このように求人企業側が報酬を支払わない場合では、あらかじめ作成した契約書に従い、人材紹介会社が支払いを催促する必要があります。支払いを忘れているだけの可能性もあるため、報酬が滞った際は求人企業側に一度問い合わせましょう。
トラブルがあった際の返金について
人材紹介業でトラブルがあった際、基本的に返金は契約書の内容に準じます。ここでは、返金条項や返金される手数料の相場、返金以外の保証方法について詳しく解説します。
返金は契約書の内容に準ずる
トラブルがあった場合の返金は、契約書の内容に従う必要があります。早期退職した場合の返金条項や、返金が必要かどうかの判断基準を見ていきましょう。
早期退職した場合の返金条項
一般的には、人材紹介会社と求人企業の間で、紹介した人材がすぐに辞めてしまい、支払った手数料が無駄にならないように、返金規定を設けます。
保証期間は90日に設定していることが多く、例えば紹介した人材が入社後90日間以内に自己都合で退職した場合、期間に応じ手数料を返金する必要があります。
また、すぐに辞めた場合は100%返金という条項にしたり、保証期間を180日に設定したり、保証期間や返金金額は契約内容によって異なります。余計なトラブルを回避するためにも、求人企業と契約する際は、しっかりと返金条項のすり合わせを行いましょう。
返金が必要かどうかの判断基準
どのような場合に返金が必要かについても、契約書の内容に従って判断する必要があります。次のように、同じ「退職」でも理由はそれぞれ異なります。
- 紹介した人材の自己都合による退職
- パワハラなど企業側の過失による退職
条件は契約内容によって異なるため、返金が必要かどうかの判断が難しい場合は、弁護士などに相談しましょう。
返金される手数料の相場
返金手数料の相場と一般的な保証期間は、次の通りです。
- 保証期間90日
- 入社後1ヶ月以内の退職は80%
- 1ヶ月〜3ヶ月未満の退職は50%
返金される手数料の相場は入社後の経過日数で考えられることが一般的ですが、時期によって返金額を細かく分けられているケースもあります。
また、求人企業から支払いのある人材紹介手数料は、入社する者の「理論年収の30%〜35%」が相場です。入社する者の月次給与プラス所定外労働手当12ヶ月分と、理論上の通年賞与などの合計を理論年収としています。職種によっては、40%以上に設定されているケースもあります。
人材紹介手数料が高いほど返金手数料も高くなるため、金額に関しては入念に検討し決定することをおすすめします。
返金以外の保証方法
返金以外にも、「フリーリプレイスメント」という保証方法があります。フリーリプレイスメントは、保証期間内に紹介した人材が退職してしまった場合、新たな人材を紹介することで保証する制度です。そのため、金銭の保証ではありません。
人材紹介会社は返金する必要がなく、募集企業にとっては、新しい人材を確保できるメリットがあります。さまざまな人材を抱えている人材紹介会社の場合、金銭の保証ではなく、フリーリプレイスメントを取り入れているケースが多いです。出費を抑えたい場合は、フリーリプレイスメントの導入を検討しましょう。
トラブルを未然に防ぐには
人材紹介業でトラブルを未然に防止するためには、次の方法を取り入れることをおすすめします。
- 企業側のニーズをしっかり理解する
- 求職者の懸念点を企業側に伝えておく
- 契約内容について弁護士に確認しておく
- こまめに求人データを変更する
状況に合わせた対策を行い、スムーズにビジネスを展開させましょう。
企業側のニーズをしっかり理解する
すぐに紹介した人材が退職してしまったり、ミスマッチを生じたりしないためには、事前に企業側のニーズを理解しておくことが大切です。打ち合わせを通して企業側が求める能力などニーズを把握し、それを満たすように人材を紹介しましょう。
求人企業の研修や教育によって、ある程度人材を育成できるものの、企業側のニーズからあまりにもかけ離れた人材の場合、教育に時間がかかってしまいます。
また、即戦力を募集している場合や人材不足で困っている場合、研修や教育に時間をかけられないため、ミスマッチはかなり危険です。人材紹介業は成果報酬型のビジネスであるため、適切な人材を紹介し、売上アップを目指しましょう。
求職者の懸念点を企業側に伝えておく
求人企業の要望や希望だけではなく、求職者の懸念点や不安をしっかりとヒアリングすることも大切です。求職者の懸念点や不安を無視してしまうと「思っていた仕事と違った」「自分には合わない社風だった」などの理由によって、早期退職してしまう可能性があります。
対応策としては、事前に求職者の懸念点をヒアリングし、それを求人企業側に伝えておくようにしましょう。そうすることで、会社見学を行うなど求人企業側にも対応してもらえる機会が増え、求職者の不安を払拭することができます。
また、入社後にフォローアップする体制を整えておくこともおすすめです。人によってはすぐに新しい環境になじめず、早期退職をしてしまい、返金対応をしなければいけない場合もあります。職場環境や仕事のみならず、プライベートの相談も受け付けている人材紹介会社もあるため、フォローアップ体制を手厚くし、早期退職を防ぐようにしましょう。
契約内容について弁護士に確認しておく
人材紹介契約書の内容を弁護士に確認しておくことも、トラブル防止につながります。契約書はトラブルを解決する際に役立つ書類ですが、自分の会社にとって不利にならないような内容にすれば、未然に中抜きなどのトラブルを防げるでしょう。
弁護士に相談すれば、法律上問題がなく、さらに求人企業から信頼を得られる契約書を作れるため、一度確認しておくことをおすすめします。万が一トラブルが発生してしまったときも、弁護士に相談して、早期の解決を目指しましょう。
こまめに求人データを変更する
入社後のミスマッチや早期退職を回避するためには、こまめに求人データを変更することも重要です。企業情報などの求人データが古い場合、入社前後のギャップが大きくなってしまうリスクがあり、早期退職につながる可能性があります。
こまめに求人データを変更し、掲載情報を最新のものにすることで、入社前後のギャップが小さくなります。また、情報の正誤もしっかりとチェックしておくことも怠らないようにしましょう。さらに、求人データを変更する際、会社の良い部分だけを見せるのではなくネガティブに感じられる情報も提示することで、ギャップを未然に防げます。こうした細かい部分の配慮も、人材紹介ビジネスには欠かせません。
トラブル時の対応について確認しておこう
人材紹介業では、求職者の経歴詐称や人材紹介手数料の中抜き、入社後のミスマッチ・早期退職、企業側が報酬を支払わないといったトラブルが起こってしまう可能性があります。
トラブル発生時にどのような対応をしなければならないのか、あらかじめ確認しておきましょう。
また、求職者の懸念点を企業側に伝えたり、契約内容を事前に弁護士に確認しておいたりとトラブルを未然に防ぐための準備も入念に行いましょう。
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